今年の夏休みはまとまってとれそうもないことが、
8月に入ってからわかった。
所属の部署で戸建ての分譲をしていて
その販売活動の影響がもろにでたためだった。
4連休が取れそうだったので、遊びにいくのは
決まりととして、海か山か迷った。
山に行くとして、山行きの交通手段の予約が取れるか調べると
高速バスは全席空きなし。
夜行列車は新宿発松本行きのムーンライト信州が残りの13席で空いていた。
迷っているうちに予約がうまってしまうと、
後悔すると相場が決まっている。
残り少ない物に価値を見出してしまうのはきっと、
万人に共通なことのように思う。
そうと決まれば話は早い。
8/10(水)の仕事後
新宿駅23:54初
松本駅04:32着
のムーンライト信州の予約を取った。
松本駅4:35初の新島々駅行きの乗り換えは
JRから私鉄の乗り換えなのに改札を出なくて済むので
スムーズだった。
新島々駅から上高地はバスで。
松本駅から上高地の往復券は列車、バス合わせて¥4400
上高地バスターミナル。
6:40頃に到着。
ここで帰りのバスの時間を予約しておく。
自分の体調や、天候によっては予定が狂ってしまうから、
何時になるかわからないのに、時間を決めるのは非常に
難しい。
でも帰りのバスの予約をしておかないと、
バス停は混雑してしまうし、乗りたい時間のバスに乗れるかわからなく
なってしまうので仕方ない。
悩んだあげく翌日の16:00に予約して、
バスターミナルを出た。
8/11(木)16:00 上高地発 松本駅行きのバス
この予定に合わせるためには旅程がタイトになる。
目指すは
涸沢経由奥穂高岳。
コースタイムは、
上高地〜涸沢(6:30)
涸沢〜穂高岳山荘(2:30)
穂高岳山荘〜奥穂高岳(0:50)
片道休憩なしで約10:00かかる。
上高地からの標高差約1700m、距離約17km。
一人で重さ16kgのザックを担いで
登山歴6ヶ月もない自分が今から今日中に頂上に立つのは難しい。
最低今日中に涸沢、できれば穂高岳山荘に辿りつかなければ、
明日16:00までにここに戻ってはこれない。
これは修行と腹をくくって、ひたすら歩き続けようと決心した。
本当ならコレが河童橋かと感慨にふけりたい物にものの、
これからの道程を考えると出てくる焦りと緊張。
歩きながら写真を撮り河童橋を横切る。
横尾まではほとんど平坦な道。
川沿いで涼しいし景色も良い。
ある意味ここからスタートかもしれない。
そんなことを思いながら給水だけして本谷橋へ。
ザックが肩に食い込んできて、肩が張ってきた。
息が上がってきて、足も重い。
そんなことが意識の中をチラつき始めた。
そんな矢先、涸沢ヒュッテと涸沢小屋の道標の発見。
何かのスイッチがカチッと入って、また元気が漲ってきた。
軽い昼食の後今後の予定を考えた。
現在12時前。
ここから穂高岳山荘へはザイテングラートを抜けて、2:30。
ザイテングラートの辺りから上は霧で見えない。
足をマッサージしてみる。
流石に足が疲れているし、足の中指は内出血で紫色になっている。
ここまでに稼いだ時間を考えると、涸沢のさきの穂高岳山荘まで
行きたい。
弱気になるなと自分を鼓舞して、合羽とザックカバーを用意して歩き出した。
ザイテングラート。
岩の肢稜。
多分標高も2700mは来ている。
小雨が降ってきた。
二足歩行が難しくなる所や梯子、鎖場が現れて来た。
三点確保で進めることが返って嬉しかった。
足にかかる負担を手で補える、それが嬉しかった。
息がすぐ切れる。
1,2,3,…18,19,20と20歩数えて立ち止まる。20歩歩いて深呼吸。
そんな風に歩くのがやっとになってきた。
空気が薄くなってきたのか、いや、まさか、などと考えながら
少しづつ、少しづつ、高度を稼いでいく。
自分以外にあまり人がいなかったけど、前に誰かが歩いている。
その背中を励みに歩き続けると、やがて追いついた。
追いつくと、その気配を察して振り向いてくれたその人は、
「お先にどうぞ」と言った。
その人に追いついた後は、その人の後を同じペースで歩けば、
心強いし少しは楽だと思っていた。
お先にいくほどもう急いでいないし、抜かして行く程の余裕もない。
狭い道を体を岩に押し付けて開けてくれている人を前には
ありがとうございますと言って、勢い良くとおり過ぎるしかないきがして、
無理をした。
しょうもない。
はーはー言いながら歩き続けると白井のコルに
穂高岳山荘が見えた。
でも涸沢ヒュッテの道標を見つけた時みたいに体は軽くならなかった。
ヘトヘトだった。
穂高岳山荘でテントの受付を済ませる頃には、
頭の芯がズキズキ痛み始めた。
少しずつ痛みは増し始めたけれど、何とかテントエアーマット寝袋を
用意して、15時頃眠りに吸い込まれた。
周りがガヤガヤしているのに気付くと目が覚めた。
どうやらブロッケン現象が見れるらしいけど、
こちらは頭が痛くてそれどころではない。
思えばおとといの夜は道具や食料の準備で寝不足。
昨日は夜行列車で寝不足。
夜通し電気をこうこうと点けている車内で寝れるはずもない。
増して初めての北アルプスに興奮していたし。
お昼もカロリーメイトしか食べてない。
そう思うとお腹が減ってきた。
腹一杯飯食って、水飲んでたくさん寝る。
これしかないと思って、重たくなった体を何とか起こすと
外は霧が晴れて見渡す限りに広がった、宇宙色の空が
日の入りを告げていた。
思えば遠くへきたものだ。
自然に浸して浮かび上がる自分の弱さ。
人のもろさ。
人の強さ。
優しさ、暖かみ。
頭に言葉にならぬ思いが渦巻いて、
アルコールでは眠りに沈められなかった。
あずさ8号はぐんぐんと流れる景色を走り抜けた。
そうだ
北アルプスにまた行こう‼